関寛斎の妻「あい」の生涯を描いた物語。こんな生き方もあるんだなあ。
あいは貧しい農家の家の末娘。
幼い子から糸をつむぐのがうまく、その腕を見込まれて、機織りの勉強をすることになりました。
やがてあいの織る若々しい反物は評判を呼び、家計の支えになっていきます。
そして18歳になったあいは、機織りの師匠であり、親戚でもある関家の養子、関寛斎と結ばれました。
この小説を読みはじめた頃、これはもしかして幕末の蘭方医松本良順の話かな?と勘違いしてしまいましたが、寛斎は良順と同じ順天堂で学んだ医師でした。どうりで似ているはずだわ。司馬遼太郎が松本良順を描いた『胡蝶の夢』にも主要人物として登場していたようです。もう一度読まないと覚えてないなあ。
さて、寛斎の妻となったあい。結婚当初は夫の稼ぎがなく、あいの機織りの腕一本で生計をたてていきます。
貧しい家で常に働いて育ったあいは、そのことに疑問を抱くどころか本望だと言って機を織り続けます。医師である夫がどれだけ努力を重ねているのかを知っているから、夫が信じる道をまっすぐに歩んでいくことを願い、支え、添い遂げることに喜びを感じます。
つつましいけれど芯がしっかりしていて、夫の後ろに従っているように見えて実は一人で立てる女性。
今の男性たちはこういう女性を望んでいるのかもしれませんね。
妻の努力に対して夫の寛斎もしっかり期待に応えます。
寛斎の一番の理解者であり、スポンサーにもなる濱口氏との出会いがあり、氏の支援をうけて長崎へ留学。そして阿波徳島の侍医へと出世を遂げていきます。あいと寛斎は大きな家に住み、使用人や弟子、家族に囲まれた豊かな暮らしを手にいれました。我が子を何人も失うというつらい経験もしたけれど、夫は戊辰戦争でも活躍し、ますます出世をしていきます。
ところが、あるときその地位を捨て、町医者へ戻る寛斎。
貧しかった過去があるからか、貧しいもののためには無料で治療を行います。貧しいものは病気になることでより貧しくなるのだから、と。
あいはあいで、町医者の妻に戻ったのを幸いと、また機織りを始めます。
最後は北の大地の開拓を夢見、北海道へと渡っていきます。
この夫婦本当に素敵なんです。
お互い常に相手のことを想っていて、支えあい助け合う。けれど、どちらも相手に依存しすぎていない。
周囲の人にも愛されて、北海道でも自分の居場所を見つけていきます。
あいは決して社会に出てバリバリ働いているという女性ではないのだけれど、生き方が格好良い。
読書って面白いなって、改めて感じた一冊でした。