筒井康隆著『旅のラゴス』
タイトルの通り、ラゴスさんという人が長い長い旅をする物語。
テレポーテーション・壁抜け・龍・銀山の奴隷・宇宙船・図書館・国王・雪の女王。
いくつかキーワードを並べてみると、なんのつながりもないように思えますよね。
でもこれらすべてがラゴスの世界であり、彼が立ち寄る町々の姿。
1冊の小説なのに、テイストの異なる5つ6つの小説を読んでいるような、お得感があります。
読み進めていくと、私自身がこの世界に入ってラゴスと一緒に旅をしているような錯覚にとらわれます。
景色や人々の姿をイメージしやすいんでしょうね。
一方で、私たち普通の人間の常識感覚で読み進めようとすると、まるで理解できないかもしれないという面もあり。
単純なようで複雑?
この本は単なるSFファンタジーではなく、人類の歴史をぎゅっと凝縮したようでもあり、様々な要素を含んでいます。
不思議な世界観は、手塚治虫の火の鳥とも似ているかな?マンガっぽい小説ともいえるかもしれませんね。
様々に異なる特徴を持った町や村を旅するところや、一緒にスカシウマを連れているところ等は、上橋菜穂子さんの『守り人』シリーズや『鹿の王』と重なります。最近再読した際には、自分が今ラゴスの世界にいるのか、守り人の世界にいるのか、わからなくなって混乱してしまいました。
ちなみに私が一番気に入っているのは、図書館のある町。ここだけおとぎ話みたいですよね。
そして何よりも、何年も何年も本を読むだけで暮らしているというところに憧れました。
筒井康隆さんって、こういうファンタジー系の小説を書かれるんですね。
外見のイメージでなんとなく、難しい固い作品を書かれると思っていました。
そういえば「時をかける少女」もこの方の作品でしたね。
私が『旅のラゴス』を手に取ったのは、新潮文庫の100冊に選ばれていたことがきっかけです。
その後、どういうわけか、書店で平積みされるようになり、話題の本になっていきました。
出版されたのは1994年。読者の感性がようやく著者に追いついたということなのでしょうか。
“謎のヒット”と巷でいわれているようです。
それもまた面白いですよね。
あっという間に読める本なので、普段あまり本を読まない人にもお勧めです。
お友達にプレゼントしたら、きっと楽しんでもらえると思いますよ。